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変わったローマの日付表記について

今日我々が使用している暦の起源は古代ローマです。

古代ローマの暦がどのようにできたかは面白い話ですが、解説しているサイトは複数あるので、ここでは古代ローマで日付をどのように表記したかを解説したいと思います。

非常に変わっていますが、ローマ人の独特の感性がよく分かるかと思います。

ローマの日付表記

ローマの暦そのものは特別なものではない、というか今と同じです。ローマの暦が今に至るまで使われているのですから当たり前です。

今と違うのは日付をどう表記するかです。

ローマ人は数は後ろから数えるのが好きなのです。それが端的に表れるのがローマ数字で、「I」、「II」、「III」、ときて次の4は「IV」つまり「5の一つ前」と表記します。9は「IX」、つまり「10の一つ前」です。こんな発想の数の表記が数を数えるほぼ全てにあり、日付も例外ではありません。

例えば「1月17日は」以下のように表記します。

  • a.d. XVI Kalendas. Februarias

「a.d.」って何?「1月」なのに「Februarias」、「17日」なのに「XVI 」、これは如何に・・という第一印象ではないでしょうか。

このラテン語は直訳としては「2月1日の16日前の日」の意味となります。「a.d.」は「ante diem ~日前」を略したもので「A.D.紀元」とは関係ありません。

現代感覚では甚だ奇妙に感じるかと思いますが、ちょっと面白いと思えた人は続きを読んでください。

詳しい説明は順を追ってしていきます。

 

月の名称

ラテン語の月の名称は以下の通りです。

言語による変化をしながらも今日までこの月名が使われ続けている事が分かります。

 

ラテン語 意味
1月 Ianuarius 出入り口の神ヤヌス
2月 Februarius 「浄化」を意味か?
3月 Martius 戦争の神マルス
4月 Aprilis 美の神アプリーレか
5月 Maius 春の神マイア
6月 Iunius ユピテル神の妻ユノー
7月 Quintilis 5番目の月(後にIulius ユリウス)
8月 Sextilis 6番目の月(後にAugustus アウグストゥス)
9月 September 7番目の月
10月 October 8番目の月
11月 November 9番目の月
12月 December 10番目の月

ラテン語の月名は品詞で言えば形容詞です。元々は「memsis 月」を形容していたと考えられていますが、ラテン語は形容詞単独の場合は名詞と見做しますので文法的には問題ありません。

月日の表記

冒頭でローマの日付は逆算で表記すると説明しましたが、常に翌月初から逆算するのではなく、月の中の3か所、カレンダエ Kalendae、ノーナエ Nonae、イードゥス Idusと呼ばれる区切りの良い日から逆算します。それぞれ月の先頭、1/4地点、1/2地点のようなものなのですが、元々は月の新月、半月、満月の日だったのでしょう。

これら3つの日は大の月か小の月かで決まります。と言っても古代と現代では大の月、小の月は違うので、どちらを基準にするか流儀が分かれるようですが、一般にはあくまで古代基準にするようですので、そちらに従うことにします。

月の大小は下記のとおりです。

  • 小の月

1月、2月、4月、6月、8月、9月、11月、12月

  • 大の月

3月、5月、7月、10月

カレンダエ 、ノーナエ、イードゥースは月の大小に応じて以下の日になります。

  大の月 小の月
カレンダエ 第1日 第1日
ノーナエ 第7日 第5日
イードゥス 第15日 第13日

Kalendae、Nonae、Idusは何れもラテン語の女性名詞複数形主格です。実際に文中で使用されると奪格または対格への語尾変化を起こしますが、その説明をしだすとローマの日付の話ではなくラテン語文法の解説になってしまいそうですが、その話はいずれ改めてするかもしれないこととし、以後は語尾を省略して説明します。

Kalendae、Nonae、Idusをそれぞれ「Kal.」、「Non.」、「Id.」と略します。主格も奪格も対格も同じ略ですので、とりあえずは語尾変化のことを考えなくてもよくなります。

話を戻しますが、順を追って説明します。

(1) カレンダエ 、ノーナエ、イードゥスの日の日付は、そのまま表記します。

「1月1日に」 Kal. Ian.

「2月5日に」 Non. Feb.

「3月15日に」 Id. Mar.

(2) カレンダエ 、ノーナエ、イードゥスの前日は「前日に pridie プリディエ」と表し、「prid.」と略します。従って、上記日付の1日前は、

「12月31日に」 prid. Kal. Ian.

「2月4日に」 prid. Non. Feb.

「3月14日に」 prid. Id. Mar.

となります。

(3) カレンダエ 、ノーナエ、イードゥスの前々日は「2日前に」ではなく「3日前に」と表現します。当日を「1」と数え始め、前々日を「3」とするのが古代ローマ流ですので、そういうものだと思うしかありません。「~日前に」は前置詞を用いて「ante diem ~」、略して「a.d.」と表します。従って、

「12月30日に」 a.d. III Kal. Ian.

「2月3日に」 a.d. III Non. Feb.

「3月13日に」 a.d. III Id. Mar.

となります。

(4) 閏年の2月は特別ルールがあります。平年より1日多くなるのは今と同じですが、1日の挿入場所が奇怪です。「2月25日」に相当する日に「第2の2月24日」を挿入します。

なんの事かと思われそうですが、2月22日以降の日付は以下の通りです。「bis」が「第2の」です。

「2月22日に」 a.d.VIII Kal. Mar.
「2月23日に」 a.d.VII Kal. Mar.
「2月24日に」 a.d.VI Kal. Mar.
「2月25日に」 a.d.bis VI Kal. Mar.
「2月26日に」 a.d.V Kal. Mar.
「2月27日に」 a.d.IV Kal. Mar.
「2月28日に」 a.d.III Kal. Mar.
「2月29日に」 prid. Kal. Mar.

なぜこんな事をするのでしょう。

それはローマ人の大切なテルミヌスの祭典の日である「テルミナリア  Terminalia」の日付が閏年も平年同様に「a.d.VII Kal. Mar.」となるようにするためとされています。

ちなみにこの閏年の挿入日「bis VI」は省略なしで書くと「bis sextum」ですが、これが今日英語で閏年の事を「bissextile year」と呼ぶ語源となっています。

月日のルールは以上です。

古代ローマの時代、当然ながらキリスト教発祥である現在の西暦年はありません。年を特定する時は多くの場合、その年にコンスルを務めた2名の名前で示しました。

例えば「MメッサラとMピソが執政官の年 M. Messala, M. Pisone consulibus」(紀元前61年)という具合です。

日常的な会話ではこれが標準だったようですが、数十年レベルの出来事を表すとなると不便です。数字で表す方式もちゃんとあって、「ab urbe condita 都市ができてから」略して「A.U.C」と呼ばれる方式で、紀元前753年とされるローマ建国年を元年とする方法です。

紀元前264年であれば「A.U.C. CDXC(=490)」と表します。

ラテン語

避けてきたラテン語文法の話ですが少しだけ触れておきます、

これまで「Id. Mar 3月15日」「prid. Id. Mar. 3月14日」「a.d. II Id. Mar. 3月13日」とラテン語を略して説明しましたが、略さず表記すると以下のようになります。

  • Idibus Martiis
  • pridie Idus Martios
  • ante diem III Idus Martios

単語の語尾が微妙に違う事に気づいたでしょうか。最初に2つは奪格に変化し、3つ目は対角に変化しています。

「格」というのは日本語の「てにをは」に相当するもので、単語に機能を与えます。時間を示す単語を奪格にした場合は福祉的に「~に」という意味になります。

3つ目が対格となるのは前置詞anteに含まれる後は無条件に対格にする「対格支配」というルールがあるためです。anteは「~前に」の意味です。

 

もう一つ面白い話というべきか分かりませんが、ラテン語は後ろから逆算したがるというのは数に関わるほぼ全てであるのですが、時として

普通の数字も何某かの区切りに近づくと逆算が始まります。例えば「18」は「duodeviginti」で超直訳の意味は「20まで2」と言うところです。

これが日付で使われると、例えば「8月15日」は省略なしで書くと

「ante diem duodevicesimum Kalendas Septembres」(a.d.XVIII Kal. Sept.)

となりますが、超直訳の意味は「7番月の朔日20の2つ前の日前」と、コントのような事になります。無理に超直訳すればなのですが。